2011年8月2日火曜日

レバノンの社会情勢について


Ramadan decorations outside Al-Amin Mosque in Downtown Beirut. Mahmoud Kheir - 7/29/2011

2011年アマーニオリエンタルフェスティバルが開催されるレバノン情勢について、アマーニオリエンタルフェスティバル日本事務局のChicaさんが詳しく説明してくれます。
※この記事は、アマーニ・オリエンタルフェスティバル日本事務局からのメール配信記事をもう少し詳しく書き直したものです※
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昨年末より中東に民主化運動の波が起こり、国際ニュースを騒がせているのはご存じの通り。アマーニ・オリエンタルフェスティバル日本事務局にも、「レバノンは大丈夫?」との質問が寄せられることが度々あります。そこで、現在のレバノン情勢や社会の状態について、簡単にご説明しましょう。

まず、チュニジア、エジプト、リビア、シリア、イエメンなどで起きた/起きているような民主化運動の起こる可能性は無いでしょう。そもそもレバノンは独裁制ではなく、すでに十分に民主的だからです。慣例として大統領はキリスト教マロン派から、首相はイスラム教スンニ派から、国会議長はイスラム教シーア派から選出されることとなっており、宗派間の権力分散にも配慮がなされています。

今年最もニュースを賑わせているのは、2005年に起きた当時の首相ラフィク・ハリーリの暗殺事件について、国際法廷の調査団がヒズボラのメンバーを犯人と結論づけたこと。これに憤慨するヒズボラ派の議員達11人が、1月に一斉に辞任したため、内閣解散となり、再組閣に手間取って5ヶ月(!)も内閣不在の状態が続きました。そんなごたごたの最中も、対立派閥の共通の意識は「何があっても内戦には発展させない。」というもので、すべて政治的な対話により解決の道が探られました。今でも対立していますが、まあ政党の対立が無い社会は一党独裁の危険をはらみますから、激化しない限りは、ある意味健全な民主社会を証明しているとも言えましょう。

レバノンと聞くと今でも内戦という言葉を連想する方も多いでしょう。15年ほど続いたあの有名な内戦は20年以上前に終結し、その後は二度と内戦は起こすまい、というのが国内の共通認識となったのです。(第二次世界大戦後に日本が戦争放棄を宣言したのにも似ていますね。)

8月7日1万人を超える規模の集会が予定されていることが今日のニュースで報じられていますが、これは抗議デモなどではなく、Lebanon Alertness Day (レバノン啓蒙デーとでも訳しましょうか)にあたり、タバコ、ドラッグ、スピード違反の危険性への自覚を人々に高めてもらうキャンペーンとして、「一度にデブキを踊る人数のギネス記録」を塗り替えようという企画。(笑)今までの最高記録は2年前にカナダのモントリオールで2年前に作られた5千人ほどの規模のものだそうです。(そんなギネス記録があったとは!)さらに同日には、世界最長の串焼きバーベキュー記録更新を狙った企画もされているそうう、220人がかりで、肉1トンを使って100mの串焼きを作るとか。。。「この日はレバノンの歴史に残る日となるだろう。中東初の2つのギネス記録を同日達成した国となるのだ。」とは実行委員会の話。

ラマダン中なのに?と疑問を持たれた方。ご心配なく。断食中の方のためには食事を取り分けておいてくれるそうです。レバノンは人口の30~40%がキリスト教徒で、イスラム教徒と共存しています。レバノンでは政党が宗派によって分かれているため、政党の対立が宗派の対立と混同されることがありますが、対立の論点は政策の違いであって、宗教ではありません。政治を離れればこんな調子で仲良くやっています。ちなみにアマーニはキリスト教徒、マネジャーのアリはイスラム教徒。無宗教の私は、この宗教熱心な二人からよく諭されるのですが、二人の考え方は「キリスト教もイスラム教も崇める神は唯一であり同一。だからキリスト教徒もイスラム教徒も一緒。」というもの。

そうそう、先日のニュースでは、「内閣不在時の経済的損失を取り返すために、保安を強化して観光産業を促進する」との首相の掲げる政策が紹介されていました。観光はレバノンの主要産業です。ただし、トルコやエジプトと違い、観光客層の主流は、中東のエキゾチシズムを求める欧米など中東外からの観光客ではなく、ファッショナブルで洗練された文化に魅せられて訪れる中東諸国の観光客。東京で例えるなら浅草と青山のような違いです。いずれにせよ、不安定な印象を持たれては経済に大打撃。国を挙げてセキュリティー強化をアピールし、観光客誘致に力を入れています。

とはいえ、他国の干渉が大きいイスラエルとの国境に近いエリア、シリアとの国境に近いエリアは物騒です。近づかない方がいいでしょう。(フェスティバルのツアーでもこれらの地域には行きません。)
最後に、客観性を保つために、今日のThe Daily Star(レバノンの英字紙)のサイトで報じられている本日のトップニュースの見出しをすべて紹介しましょう。
  • 国際法廷の調査団、2005年の首相暗殺事件の容疑者4名を正式公表 (先述の通り、国内の話題としては、国際法廷の調査結果にまつわる話がずっと一番の注目なのです。)
  • リビア反体制派司令官暗殺の謎  (NATO参戦でも終結せず、いまだに内戦状態のリビア。どこまで続くのか。。)
  • シリア数千人規模抗議運動において13人が射殺 (隣国シリアは、中東民主化の波に乗って、必死の戦いを続けています。)
  • スレイマン大統領、各党党首との対話を開始 (例の国際法廷調査結果により、暗殺されたラフィク・ハリーリの息子で1月まで首相だったサード・ハリーリが率いる党を中心とした派閥と、容疑者とされた4人が属する民兵組織ヒズボラの党を中心とした派閥が対立を続け、硬直状態になっているのをなんとか調停しようとしているのです。)
  • レバノン、ラマダン支度 (今夜行われる、ベイルートの海岸通りコーニッシュに人々が集まり月を確認する恒例行事では凧揚げ大会も開催。様々なレストランで用意されるラマダン中の特別夕食メニューの案内。その他の各地のイベントなど。ベイルートのモスク前に制作されたアーティスティックなデコレーションの写真が目を引きます。)
レバノンの社会が現在どんな状態か、雰囲気を掴んで頂ければ幸いです。

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